撫でる

犬を撫でていたら
ある日 パチンコの玉のような
丸いものに 触れた

不吉な予感に
手が止まる

それから
思いつきで
毎日 犬を撫でた

背中・脇腹
お腹・足
頭・のどから胸へ

朝夕 二回
毎日 犬を撫でた
祈るように
励ますように

犬は耳を下げて
うれしそうにしていた

すると
ある日 パチンコ玉が無くなっていた

何とも言えぬ
不思議
一体あれは 何だったのか
クロの坂道

その坂道を通りかかると
クロは突然リードを強く引く

クロの
あこがれの坂道

ある日
思いがけず首輪から外れて
飛び出したクロは
その坂道を駆け上がって
しばらく帰ってこなかった

クロを心配してか
シロは坂下の道で
キューンと鳴いた
探検を終えて
満足したのか
やっとクロが帰ってきた

坂道の上に何があったのか
それはクロの秘密

そのたった一度の経験が
忘れられないのか
その坂道にくると
クロは必ず
リードを強く引く

クロのあこがれの
坂道


たいくつだ とか
くるしい とか
伝えることの できない犬が

時として
言葉に反応している

人間の会話を
聞いている

かつて
人間だった時が
あるかのように

黒い瞳で見あげて
自分へ投げかけられる
言葉を待っている

憧憬 わたしの子どもたちへ
三浦 千賀子 詩集より